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名古屋地方裁判所 平成5年(行ク)5号 決定

申立人

株式会社倉五

右代表者代表取締役

倉知治

被申立人

愛知県知事 鈴木礼治

右訴訟代理人弁護士

後藤武夫

理由

三 そこで、まず、本件処分により生ずる回復困難な損害を避けるため本件処分の効力を停止すべき緊急の必要があるか否かにつき検討する。

1  行政事件訴訟法二五条二項にいう「回復の困難な損害」とは、原状回復若しくは金銭賠償の不能な損害又は金銭賠償が可能であっても、その損害の性質、態様等から社会通念上金銭賠償だけでは填補され得ない著しい損害をいうものと解すべきである。

(一)  これを本件について見るに、本件疎明資料によれば、申立人は、本件処分後四年余を経過した平成三年二月時点において、岐阜県知事、名古屋市長等の許可を受けて廃棄物処理業を営み営業を継続していたが、本件処分により信用を失墜し、有害物質の取引を断られるなどしたこと、営業収支は赤字で、本件処分後は経営が苦しくなったことなどが窺われたものの、他方、申立人は、廃棄物の処理及び再生利用に関する独自のノウハウを有し、本件処分後においても従業員六名で登録車両二台を保有するという従前と同一の企業規模を維持し、また営業収支の赤字は本件処分以前からのものであったことが認められる。そして、右以降申立人の右状況に変化を生じたとの疎明もないので、現時点においてもほぼ従前と同様の状況にあるものと推認することができる。

したがって、本件処分がされたことにより、当該処分に基づいて産業廃棄物に関する業務を行うことができない等、右に認定した状況に陥り、その結果申立人に損害が生じており、又はこれを生じるおそれがあるとしても、それは社会通念上金銭賠償では填補され得ない著しい損害とはいえず、未だ「回復困難な損害」が生じており、又はこれを生ずるおそれがあるということはできない。

(二)  ところで、申立人は、新法の施行後、廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令附則の規定により産業廃棄物処理業の許可(他地域におけるもの)の範囲で特別管理産業廃棄物の処理を行っており、平成五年七月一日以降引き続き右業務を続けるためには、平成五年六月三〇日までに特別管理産業廃棄物収集運搬業及び特別管理産業廃棄物処分業の各許可の更新手続が必要であるが、本件処分が存在するために右更新手続ができないおそれがあり、そうすると償うことができない損害が生じる旨主張する。

そこで、法改正の経過について見るに、旧法が平成三年法律第九五号により改正されたことにより、産業廃棄物のうち一定のものが特別管理産業廃棄物として指定され(新法二条五項)、その収集、運搬又は処分を業として行おうとする者は、新法一四条の四に規定された特別管理産業廃棄物収集運搬業(同条一項)及び特別管理産業廃棄物処分業(同条四項)の許可を得なければならないとされたが、右改正に伴う経過措置として、旧法一四条一項又は五項の許可を受けている者であって、特別管理産業廃棄物に相当する廃棄物の収集、運搬又は処分を業として行うことができるものは、平成五年六月三〇日までは、新法一四条の四第一項又は第四項の許可を受けないで、当該廃棄物にかかる特別管理産業廃棄物の収集、運搬又は処分をその範囲とする当該業を従前の例により引き続き営むことができ、その者が同日までに同条一項又は四項の許可を申請した場合において、同日を経過したときは、その申請について許可があった旨の通知を受ける日又は許可をしない旨の通知を受ける日までの間も、同様に扱われ、当該業を引き続き営むことができるものとされている(廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令附則(平成四年政令第二一八号)五条)。

したがって、申立人が、右の経過措置により、他地域における産業廃棄物処理業の許可の範囲で特別管理産業廃棄物の処理を行っているものであるとしても、平成五年七月一日以降引き続き右業務を行うためには、少なくとも、同年六月三〇日までに新法一四条の四第一項又は第四項の許可を申請しなければならないものであり、そのことは本件処分の存在とは何ら関わりがない。

なお、申立人の主張は、本件処分が存在するために申立人は右許可を受けることができないという趣旨に解されないでもないが、本件処分の存在自体が、直ちに右許可の妨げになるとすべき事情は見当たらない(右許可の要件を定める新法一四条の四第三項及び第六項の二号にはいずれも「申請者が第七条第三項第四号イからチまでのいずれにも該当しないこと。」という要件が掲げられ、新法七条三項四号のニには、「第七条の三第一項(第一四条の三において準用する場合を含む。)の規定により許可を取り消され、その取消しの日から五年を経過しない者」と規定されているが、本件処分がされた事実をもって申立人が右ニに該当することになるとは解されない。)。

したがって、申立人において他地域で現在行っている特別管理産業廃棄物に関する業務を続けるために本件処分の効力を停止すべき必要性はないというべきである(なお、申立人が、愛知県において特別管理産業廃棄物に関する業務の許可申請を行ったとしても、本件処分の効力が停止されない限り、平成五年七月一日以降右申請に対する許否の処分がされるまでの間右業務を営むことができないこととなるが、申立人は既に本件処分により右業務を営めない状況にあるのであるから、そのような損害は、(一)でみたように「回復困難な損害」に当たるものということはできない。)。

2  右(一)及び(二)において判示したところによると、本件処分の執行によって生じる回復困難な損害を避けるためにその効力を停止する緊急の必要があると認めることはできない。

四 よって、その余の点について判断するまでもなく、本件申立ては理由がないので、これを却下することとし、申立費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 岡久幸治 裁判官 後藤博 入江猛)

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